闘えカルロス

カルロスは激怒した。
自分の国の王の卑怯で高圧的な政治に激怒した。
カルロスは貧しい村のしがない百姓である。
他の百姓の息子と婚約している妹もいるし、畑のじゃがいもの収穫時期だ。
カルロスには王の政治なぞ、気にしている余裕はなかった。
だが、カルロスは何事に関しても闘わなければ気が済まなかった。
だから、自分の村を出て、川にかかる木製の橋を渡り、深い山道を通り、首都に辿り着いた。
首都にはカルロスの唯一無二の友人、シリウスがいた。
シリウスは自分の村で細々と暮らしているカルロスとは違い、会社で働きそれなりの暮らしをしていた。
「シリウス、今日のこの国の政治についてどう思う?」
カルロスはシリウスに聞いた。
「王の態度が横柄でまるで国民のことを考えていない。」
シリウスは答えた。
「そうとも!だから私は王と闘おうと思う。」
カルロスが胸を張って言った。
「だが、王は自分にたてついた者を殺すぞ。」
シリウスが真剣な顔で言った。
「それがどうした!卑怯な政治で民を弄び、自分は高みの見物など許せん!」
カルロスが大きな声で言った。
「確かにそうだ。だが、死んでしまっては何もできないぞ。」
シリウスがカルロスをなだめようとして言った。
「死など恐れてどうする!」
カルロスは声を荒げ、シリウスの家をとび出した。
シリウスもしかたがなくカルロスを追った。

カルロスとシリウスは王のいる城に飛び込んだ。
だが、無許可で城に侵入したため、たちまち衛兵に捕らえられてしまった。
2人は玉座まで連れて行かれた。
「貴様らは何を思って、我が城に飛び込んだ。」
王の名前はディザイア。
彼はカルロスとシリウスに自分の城に飛び込んだ理由を聞いた。
「お前と闘うためだ!」
カルロスは大きな声で言った。
「ほう・・・。理由を聞いておこうか?」
ディザイアはカルロスを睨んだ。
「お前が卑怯で高圧的な政治を行っているからだ。」
カルロスもディザイアを睨んだ。
「そうか。」
ディザイアは立ち上がり、瞬く間にカルロスの目の前に来た。
「だが、それが政治というものだ。貴様には理解できないだろうがな。」
ディザイアはカルロスを見下して言った。
「国民に理解できない政治をする意味などない!」
カルロスはディザイアに食って掛かった。
「どの口がそんな言葉を叩いている?」
ディザイアの腰にある鞘から剣を引き抜きカルロスの首元に当てた。
「脅しか?卑怯だぞ・・・。」
カルロスは首元に当てられている剣を気にせず、ディザイアを睨んだ。
「命が惜しくないのか?」
ディザイアはそんなカルロスの態度に笑みを覚えた。
「貴様のような度胸のある男は初めて見た。闘ってやろう。」
カルロスを見下しながらディザイアは言った。
「流石は王だ。では、早速闘おう。」
カルロスは己の拳を握りしめた。
「だが、いいのか?貴様の妹はもうすぐ結婚するそうではないか。今、貴様が死んでしまっては結婚式ができなくなるだろう?」
ディザイアはカルロスに聞いた。
「な!私が負けるとでも!」
カルロスの拳に力が入った。
「情けというやつだ。どちらが負けるかは闘ってみなければ分からぬ。ならば、その前にやっておきたいことはやっておくべきだろう。」
ディザイアが言った。
「む・・・・・・・」
カルロスはどもった。
カルロスの両親は既に他界し、現在の肉親は妹しかいないのである。
もし、自分が死んでしまっては最愛の妹の結婚式はどうするのか?
そして、敵であるディザイアの意見を承諾してもいいのか?
だが、カルロスは戦わなければ気が済まなかった。
例えどんなものであろうと彼は勝たなくては心が収まらなかった。
「ならば、その情けという奴と闘ってみよう。一週間時間をもらおうではないか。」
カルロスはディザイアの意見を承諾した。
「いいだろう。一週間後に再びこの場に来るのだぞ。」
ディザイアが笑みを浮かべて言った。
「もちろんだとも!」
カルロスがディザイアの笑みを気にしながら言った。
「だが、少し信用できんな。本当に帰ってくるか怪しい。」
ディザイアは更に笑みを浮かべ、目つきをきつくした。
「ならば、友シリウスを人質としよう。いいか?」
カルロスは大声で言った後、シリウスに言った。
「ああ、構わん。」
シリウスは承諾した。
「では、一週間後戻ってくるぞ!」
カルロスは城をとび出して行った。

その後、カルロスは急いで家に帰った。そして、妹に今すぐ話を合わせて結婚式を挙げようと言った。
妹は喜んだが、問題は相手方だ。
突然、結婚式を挙げてくれと言われても「はい」とは言ってくれなかった。
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
相手方の家族の文句と闘い、何とか了承を得た。
早速、家に跳んで帰り、妹に結婚式を挙げられることを言った。
だが、同時にカルロスはこんなことを言った。
「私は結婚式に出られない。大事な約束があるのだ。これからはあの男と幸せに暮らせ。」
カルロスはそう言って外に飛び出していった。
妹は何があったのかと不思議に思ったが喜びに浸っていた。
カルロスはこの闘いに2日を費やしていた。

カルロスは走って木製の橋のところまでたどり着いた。
だが、なんということだろう。
川は増水しており木製の橋は完全に沈んでいた。
「どうしたものだろう・・・」
カルロスは悩んだ。
増水のせいで約束を破る事はできなかった。
カルロスは橋があったと思われる場所を進んでいった。
下流へ100m行けば、鉄筋コンクリート製の明らかに周囲の風景と不釣り合いな橋があったのに・・・。
増水した川が容赦なくカルロスを流そうとする。
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
いつの間にか、カルロスは橋を渡るのではなく、川を上っていた。
何回も水に押し戻されそうになるも彼は負けなかった。
そして彼は朝日が昇る頃に川の源までやってきてしまった。
カルロスはこの闘いに3日を費やしていた。

カルロスは川を下り深い山道を通った。
しばらく歩いていると周りを山賊の一隊が囲んだ。
「待て。」
「何故だ?」
「待てと言ったら待て。」
「だから、何故だ?」
「山賊は山に来た者の物を盗む者。阻むのは当然だ。」
山賊たちがカルロスに跳びかかった。
ここで並の人間ならば、諦めてしまうだろう。
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
多勢に無勢と分かっていてもカルロスは闘わなければ気が済まなかった。
「うわぁ!」
山賊が一人倒れた。
それから他の山賊も次々とカルロスにやられた。
「お前らの頭は何処だ?」
カルロスの一人の山賊に聞いた。
「ヒィ。すぐ近くの洞窟におりやす!」
山賊はカルロスを恐れてアジトの場所を教えた。
「ならば、そこへ案内しろ。私を阻むよう命令した者を倒さなければ勝ったことにはならぬ。」
カルロスは山賊退治に出た。
そして・・・・・・
「ヒイイイ!お助けあれ!」
カルロスは山賊をかたっぱしから潰し、彼らの頭、食用ニックという名前の山賊と対峙している。
「ヒイイイ!やめてくだされ!」
食用ニックは命乞いをした。
「闘いは常に本気でなければならない。」
だが、カルロスはそれを無視し食用ニックを潰した。
「ギャアアアアアア」
その後、食用ニックの悲鳴が辺りの山に木霊したという。
カルロスはこの闘いに丸一日を使ってしまった。

カルロスは急いでいた。
一週間も猶予をもらったのにそれを全てふいにしてしまったのだ。
これ以上、太陽が沈めば、シリウスは殺されてしまう。
何故、卑怯なことに付き合ったのかカルロスは今更になって自分を恥じた。
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
例え卑怯なことであろうとそれを避けようとするのは負けたも同然だからだ。
彼は太陽が沈まないようにマッハ11の速度で走っている。
当然、彼の周囲に衝撃波が発生し、
当然、彼の体に当たる。
そうなれば、ただの人間は避けてくたばってしまうだろう。
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
衝撃波の力を受け止めそのまま走って行った。
更に速度を上げ、最終的にはマッハ20にまで達した。
常人だろうと最新鋭ジェット機だろうと衝撃波に当たれば裂けて死んでしまう。
だが、それすらもカルロスは耐えきった。
街中すらマッハ20で走って行った。
もちろん、周りには建物の残骸と人々の裂けた死体がいくつも転がっている。
シリウスの働く会社の彼の部下であるプロキオンは、ディザイアから命令されてカルロスを止めようとしたが衝撃波で殺されてしまった。
卑怯も闘いもなくカルロスが通った場所は一瞬で地獄絵図になった。
それをお構いなしにカルロスは走って行った。
闘わなければ気が済まなかったのである。

遂に城の目の前まで来た。
だが、外を衛兵が囲んでいた。
「王の命令だ。ここからは一歩も通さん。」
槍をカルロスに向けて言った。
兵士相手に一般人は勝てない。
こう思うのが普通であろう。
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
「どけぇぇぇぇぇ!!」
カルロスの鉄拳が一人の衛兵の鎧をへこませた。
「グァ!グァ!」
その衛兵は心臓を圧迫され苦しんだ。
「なっ・・・・・・・・・・」
他の衛兵はその気迫と力の大きさに恐れおののき逃げようとした。
「逃げるとは卑怯な・・・」
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
目的そっちのけで衛兵を次から次へと殴った。
そして、衛兵が全て倒れた時、カルロスはふと気づいた。
「シリウス!!」
親友の安否が気になった。

バン!!!
「おや。少し遅かったようだな。」
ディザイアがシリウスの首を切り裂くのが、扉を開けたと同時に見えた。
「何故だ!私は約束を守った!卑怯ではないか!」
カルロスは友人の死が信じられなかった。
「卑怯?貴様は約束した時間から1秒遅れた。だから、友人が死んだのだ。」
ディザイアは当然のごとく言った。
「それに文句を言う貴様の方が卑怯だ。」
ディザイアは最高の笑みを浮かべた。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
カルロスにはもはや約束などどうでもよくなっていた。
ただ命を軽く扱ったディザイアの怒りが湧いていた。
鉄拳が勢いよくディザイアに向かった。
「時間を与えたにも関わらず素手か。愚かな・・・。」
だが、ディザイアはヒラリと避けて鉄拳を回避した。
「なっ!?」
「頭を使え、頭を・・・。」
カルロスはディザイアが避けるとは思っておらずバランスを崩し、ディザイアは笑った。
「所詮は茶番だったな。」
ディザイアは剣でカルロスを背中から刺した。
「うっ・・・・・・・・・」
カルロスの意識が途絶えた。
ああ。
ここでカルロスは死んでしまうのか。
卑怯な王に負けて彼はこの世を去ってしまうのか。
だが、カルロスは闘わなければ気が済まなかった。
彼は暗い空間で目の前に迫る死と闘った。
死が彼の命を奪おうとする。
しかし、カルロスは文字通り死に物狂いで死と闘った。
そして、死を破ってしまったのだ!
「私は負けん!」
カルロスは身体に剣が刺さったまま起き上がった。
「信じられん・・・」
ディザイアは口を開けているしかなかった。
「王よ。私は卑怯で高圧的な貴様を許さん!」
カルロスがディザイアに跳びかかった。
武器を失い、死んだはずの男が生きているための動揺でディザイアは動けなかった。
そして、
ズドォォォォォォォォン!!

激流と戦い、山賊と戦い、衝撃波と戦い、衛兵と戦ったカルロスの一撃はどんなに強烈なものだったのか。
それを知る者は誰もいない。
だが、カルロスがどんな人間だったかは誰もが知っている。
彼は闘わなければ気が済まなかった人間だ。

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